ハリネズミのやさしさ

読み切り短編小説 大事な心を書き留めます。

始める勇気

種は最初の一歩に躊躇っている。


これから何が起こるのか。


見えない未来が恐ろしくて、真っ白な世界に絵の具をたらす勇気がない。


芽を出してしまえば、枯れる時が来る。

 

だったら、このままじっとしていればいい。

 

静かに死を待ち続ければいい。

そう思っていた。


だが、声が妨げる。


「それは絶対にいけない。死への恐怖を知らずに死んではいけない。受け入れることができる死は全く美しくない。美しさは君が見つけた色の中にある。」


誰だろう。でもその声に安心を覚えた。

声は続ける。


「生きろ。芽を出せ。最初は白しか見えないが、だんだん色が見えてくる。感じろ。そこには君しか知らない色がある。それを見つければ、死ぬのが怖くなるだろう。だが、それが君の色だ。君の生きる意味だ。」


僕の色は何色だ?


勝手に体が動いていた。


闇しか知らない僕は、その答えを探しに真っ白な世界に顔を出す。


「安心しろ。死はけして終わりではない。どこまでも繋がっていくものだよ。始まりさえあればね。」


そのとき、これが誰の声なのか分かった気がした。